「さぁ、いい子だ。絵本を読んであげよう。 これはまだ幼く愛らしい淑女と美しい咲かぬ薔薇のお話。 表題は……――――『薔薇の国』」 物語の幕開けは粛々と。 舞台は薔薇のお好きな女王様の治める国。 紳士淑女の集う国をヒトは“崇美の国”と呼ぶ。 薔薇は特別な花……そう、女王様のお気に入り。 特別な花を美しく咲かせられるのは、王室付き庭師だけ。 彼は今日も愛し女王陛下のためと、銀の銃で薔薇を咲かせゆく。 そして薔薇に魅了された少女がもう一人。 十五の誕生日に一厘の薔薇を贈られた公爵令嬢レティーシャ。 咲きたくないと泣く名も無き薔薇に、優しく笑う少女。 エリオットと名付けられた薔薇は、その日から国唯一の咲かぬ薔薇となり、少女と恋を育む。 周囲に静かに祝される二人だが、女王の耳に咲かぬ薔薇の噂が届く。 「この国の薔薇はすべて私の物。……そうであろう?」 咲かぬ薔薇を手に入れるため、庭師は兵を引き連れ公爵家へと向かう――――。 あぁ、長い沈黙の夜が始まる。 昇り堕つ金も、満つ欠く銀も祝さない。 今宵は掴みかける光を蔽う、暗がりの宵。 真実を謡う薔薇と、少女のもとへ帰りたい薔薇。 二つの薔薇が会い見え、紛い物は本物へ。本物は紛い物へ。 二つが一つになった時、城は荊で覆い尽くされ、物語は薔薇が用意した結末へと動き出す。 薔薇に愛されたのは誰? 薔薇に埋もれたのは誰? 薔薇に囚われたのは誰? めでたしを夢見たのは――……誰? 悲談に沈むは薔薇かヒトか。 或いはかつての名も無きか。 想いの先は交わることなく。 それでも咲かせようとめでたしを夢見る。 それは枯らむ薔薇を解する物語。 求め夢見た愛の話。 Copyright (C) 2009-2012 Ritorno. All rights reserved. |