ソレはかつて彼女の涙から生まれた。

皆がソレを美しいと。
皆がソレを彼女のようだと。
口を揃えて、ソレを讃えた。

ソレは彼女を指し示すために。
ソレは彼女の美を讃えるために。

やがてソレは思い至る。
愛を失うことが。
愛を得られないことが。
美しくあるための最高の条件だと。

そう、愛を失うソレは美しい――――。



小さな器で出会った薔薇と男。
薔薇は一層美しく。
真っ白な男、アドニスは疎まれた。


紡ぐ棘を怯まずに。
肌を棘が裂こうとも。
荊で眠る夢を見る。

されど酷薄にも似たそれを。
たとえば約束だというならば。
言葉を違えたのは。

薔薇か。
男か。
或いは両者か。


奇なる花はまだ知らない。
偶う記憶の結末も。
続く物語の引き金も。
すべてそこにあることを。


それは二つの花を解する物語。
薔薇に愛され違った男の話。